本日11月4日は、武庫川女子大学の学内で収録した模様をオンエア。
そして「みんなで短編小説」第4回 優秀作品の発表を行いました!!

投稿いただいたリスナーの皆さま、
そして今回作品を投稿して収録現場にも来てくださった学生の皆さま、
本当にありがとうございました。

画像: みんなで短編小説 第5回

今回選ばれた作品はこちらです!!

投稿者 京都市のみゆきちさん

 ボクが初めてあの人に出逢ったのは、美しく怪しい満月の夜だった。月光にきらめく砂漠がまるで光り輝く水面の様で。その中で1人、しなやかに神に舞いを捧げていたのがあの人だった。
 ボクはある大国の王に貢物として、はるか西の果てから運ばれていた。ピラミッドという大きな石の墓に一緒に埋葬される為に。ボクの瞳がトパーズに似た赤と黄色なのを珍しがられたからだ。薄いベージュグレーの毛皮によくはえる色違いの瞳。西の果てでは忌み嫌われていたが、この国では太陽の色と喜ばれた。
 「埋葬の日までお前は神官様の所で過ごすんだ」そう言われ運ばれた先で、静かに振り返ったのがあの人だった。艷やかな黒髪にすずやかな瞳。微笑みのない美しい人。どんな声なんだろ。「美しい瞳だ。」ん?なに今の声。ボクの心に直接響く声。「落ち着かないか?」やっぱり。神官様の声が聴こえる。「波長が合うみたいだな。」そう言ってボクを真っ直ぐに見つめてくれた。それだけの事がただただ嬉しかった。
 神官様は毎日神に祈りを捧げ静かに暮らしている。もともとあまり沢山話さないみたい。しかも、たまにやって来ては偉そうに長々と話す人達にはほぼ無言だ。
 言い返さないの?って思ったら「嘘つきほどよく話す」って。嫌いなのが伝わってきて面白い。神官様って優しくて正直だ。「お前ほどではない」やっぱりね。ボクは何だか楽しくなった。
 ある日ボクは外を見ていた。大きな石のお墓。もうすぐ出来上がる、ボクが入るお墓。もしボクの瞳が茶色なら、そう考えていた。「綺麗な瞳だ」でも不吉だって言われたよ。「私は好きだ」ほんと?だったら嬉しいな。神官様が好きな瞳ならボクの宝物だ。神官様はそっとボクにふれてくれた。暖かくて幸せだった。
 そして、ついにその日はやって来た。ボクがお墓に入る日。神官様とお別れの日。神官様ボクのこと好きだって言ってくれた。だから強くいられる気がした。王様に謁見する為に、大きな部屋で神官様と待っている。埋葬される宝石や財宝が並んでる静かな部屋。ふたりで。ふたりで黙って待っている。最期まで好きな人と一緒にいられたボクは幸せだった。
 王様はボクを見るなり、素晴しい瞳だと褒めてくれた。墓の良い魔除けになると。そしたら神官様が急に顔を上げ話しだした。
 「おそれながら王様。このモノの瞳はとても聖なるものとはいえません。邪気がみなぎっていて人の心を惑わし、果ては国を滅ぼさんとする悪の気に溢れています。毎夜鎮める為に祈りを捧げ祓ってまいりましたが、私の力でも手におえるものではありません。前王の聖なる墓に共に埋葬するなどもってのほか。どうぞ西の国に送り返すなり捨置くなりされた方がよろしいかと存じます。もちろんこのモノの殺傷はお控えください。邪気がさらに広まりかねませんゆえ。」
 どうしたの?神官様。びっくりしてポカンとしていたら「このモノの事はどうぞお忘れになり、最初の予定通り生きた埋葬品は私一人に。」
 そう言って王様に頭を下げ立ち去る神官様。待って!何言ってるの?!慌てて鳴いても見向きもしない。どんなに檻の中で暴れても振り返りもしない。真っ直ぐなまなざしと、神々しいまでの美しい姿はあの日のままだった。
 うそつき!うそつき!うそつき!!
 ボクは神官様の後ろ姿に何度も何度も、何度もそう叫んだ。連れて行って!そばにいたいよ!
 ボクの声が響くなか神官様はおろか誰ひとりボクに見向きもしない。檻の中で傷だらけになって暴れても。広い広い部屋の中で、ボクはまたひとりぼっちになった。
 あれからどれだけの時間が経っただろう。出逢ったあの日と同じ満月の美しい夜、王宮から放り出されたボクは大きな石の扉の前にいる。もう二度と開くことのない墓の扉。ボクが入るはずだった場所。
 神官様、ボクは強くなる。強くなってあなたからもらった命を、大切に生きぬいてみせる。そしてまた必ずあなたに逢いに行く。ありがとう。ばかっ!って言いに。

リスナーの皆さんからの投稿をお待ちしています!!

今回も本当に沢山のご投稿をいただきました。ありがとうございました!!
このコーナーで優秀作品として発表させていただきました作品は、
角川春樹事務所 PR誌「ランティエ」に後日掲載予定です。

このコーナーでは引き続き、
リスナーの皆さんから募集し、毎月1エピソードずつ発表していきます。
猫と主人公の女性の、生まれ変わりを経てつながる8つの物語…。
時代、国籍、猫の種類、物語のジャンルなど設定は自由です。
文字数は2000字程度(原稿用紙5枚程度)
番組内で1話ずつ紹介させていただき、そこで登場した時代や設定、
一度登場した猫の種類(色、猫種)などは以降の物語では使えません。

第1回で紹介した湊かなえさんが執筆した
「あなたとわたしの物語」に登場したのは、現代に住む女性と白い猫。
そのため、「平成中期以降」、「白い猫」という設定は使えません…。
作品はこちらからご覧いただけます。

そして今回は、「古代エジプト文明(ピラミッド=エジプト古王国時代)」、
「グレーの猫」が出てきました。
※ベージュグレーという表現でしたが、今回の投稿で「グレー」という色を
 使用したこととさせていただきます。
<<既に登場した時代>>
「現代(平成中期~令和)」「江戸時代前期」「明治時代前半」
「昭和初期」「古代エジプト文明」
<<既に登場した猫の種類>>
「白い猫」「三毛猫」「黒猫」「茶トラ」「グレーの猫」
以上の設定以外を使って、短編小説を執筆、投稿お願いします!!

第5回の〆切は、11月18日。
お送りいただいた作品全ては、湊かなえさんご本人が読み、選考してくださいます。
第5回の発表は12月9日(水)の番組内で行います。
(引き続き、毎月1本、募集・発表を続けていきますので、奮ってご投稿ください)

投稿は↓のメッセージフォームから投稿いただくか、
〒556-8510 FM大阪『湊かなえの「ことば結び」』
「みんなで短編小説」のコーナー宛でお願いします。

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