本日2月24日は、「みんなで短編小説」第7回 優秀作品の発表を行いました!!
今回選ばれた作品はこちらです!!

投稿者 大阪府 の ルミン さん  題「永遠の微笑み」

 煉瓦造りの部屋の大きな窓から、柔らかい朝陽が差し込んで来る。私は大きく伸びをした。私の名前はカリス。アビシニアンの雌猫だ。ブルーの光沢がある毛色を、ご主人様はとても気にいってくれている。好きなものは、ご主人様。嫌いなものは、ご主人様以外の人間だ。ご主人様はとっても立派な芸術家で、私の役目はこのアトリエでご主人様の作品をネズミから守ること。だから、私はいつも満腹で幸せな朝を迎えている。
 ガタンという音と共に扉が開いて、ご主人様が入って来た。
「おはよう!カリス。いつも私の作品を守ってくれてありがとう。さあ、ゆっくり休んでおくれ。」
 ご主人様の優しい手に全身を撫でられると、嬉しさのあまりに喉が鳴る。
「ああ、ずっとこうしてご主人様の側にいたいなあ。」
 私は精一杯喉を鳴らすが、間もなく人間がやって来る。私は、人間が怖いのだ。

 それはまだ、ご主人様と出会う前のことだ。あまりの空腹に耐えられず、店先の魚を食べてしまったことがある。人間に捕らえられた私は、首をひもでくくられて川に投げ込まれるところだった。その時、思った。人間は怖い。魚は、誰のものでもないのにと。
 ところがその時通りかかったご主人様が、私を助けてくれたのだ。
「こんなに美しい猫は見たことがない。この猫は神の使いに違いない。私はこの猫にカリスと名付けよう。カリスとは、美と優雅を司る女神の名前だよ。」
 人間は、慌てて私を解放してくれた。その日から私は、ご主人様の前だけでしか姿を現さないことにした。二度と、人間には会いたくないからだ。

 今日もまた、ご主人様は大きなキャンバスに向かって絵筆を動かし始めた。私は睡魔に襲われながらも、ご主人様の動きから目が離せない。
 ご主人様の今回の作品は、女性の肖像画だ。作品はほとんど仕上がっているのだが…。
「あれ、顔が無いよ!」私はミャーと鳴く。
「そうなんだ。この絵のモデルの女性はね、とても悲しいことがあったんだ。それで彼女の夫から彼女を慰めるために、肖像画を依頼されたのだけど…。ダメなんだ。彼女の悲しみはあまりに深くってね。このままでは、悲しい顔の肖像画になってしまう。弱ったな。来週の彼女の誕生日には仕上げなくてはならないのに。」
 いつも生き生きと創作しているご主人様の、こんなに困った様子を初めて見た私は、なんだか胸が痛んだ。でも私がご主人様の為にできることは、ネズミを退治することだけ。無力な自分がちょっと悔しい。
 その時、扉を叩く音がした。私は、素早く戸棚の片隅に隠れた。
 一人の女性が入って来た。身分の高い人なのか数名の家来を伴っているが、彼女は彼らに外で待つようにと命じた。その人は黒い衣装を身にまとい、まるで魂をどこかに忘れて来たかのようにふわりとイスに腰かけた。漆黒の髪を緩やかに腰まで波打たせたその女性の美しさに、人間嫌いの私でさえ見とれてしまった。
 ところが彼女の表情は、とてつもなく暗い。ご主人様の絵筆は止まったままだ。
「モナ・リザ、お願いだからもう少し微笑んでくれないかい。」
「ごめんなさい、レオナルド。先月とても可愛がっていた猫が、病気になって死んでしまいましたの。それ以来、心にぽっかり穴が開いてしまい、とても悲しいんです。」
 私は、ドキリとした。この女性は悪い人間では無いかもしれない。ここで抑えきれないのが、私の好奇心だ。私はその女性のことが気になって、顔を出してしまった。
「あら、可愛い猫さん。こっちにいらっしゃい!」
 私を見る女性の瞳は、一瞬で生気を取り戻した。この人は怖くない。私は確信した。私はそろりそろりと女性に近づき、その膝に飛び乗った。
 女性は私を愛おしそうに何度も撫でながら、優しく微笑んだ。
「素晴らしい!その微笑みが欲しかったんだ。」
 ご主人様は素早く絵筆を動かしながら、私に愛情一杯のウインクを投げかけた。その夜、ご主人様の作品は完成した。
「ありがとう、カリス。お前のお陰で、最高の作品が仕上がったよ。私はこの作品の中に、永遠の微笑みを残せそうだ。今夜もしっかり、私の作品を守っておくれ!」
 ご主人様は作品にレオナルド・ダ・ヴィンチとサインを入れると、寝室へと戻って行った。
「おやすみなさい、ご主人様。私の世界一の飼い主さん。あなたの作品をしっかり守ります。」

リスナーの皆さんからの投稿をお待ちしています!!

今回も本当に沢山のご投稿をいただきました。ありがとうございました!!
このコーナーで優秀作品として発表させていただきました作品は、
角川春樹事務所 PR誌「ランティエ」に後日掲載予定です。

このコーナーでは引き続き、
リスナーの皆さんから募集し、毎月1エピソードずつ発表してきましたが、
次回がいよいよ最後の募集となります。
猫と主人公の女性の、生まれ変わりを経てつながる8つの物語…。
時代、国籍、猫の種類、物語のジャンルなど設定は自由です。
文字数は2000字程度(原稿用紙5枚程度)
番組内で1話ずつ紹介させていただき、そこで登場した時代や設定、
一度登場した猫の種類(色、猫種)などは以降の物語では使えません。
第1回で紹介した湊かなえさんが執筆した
「あなたとわたしの物語」に登場したのは、現代に住む女性と白い猫。
そのため、「平成中期以降」、「白い猫」という設定は使えません…。
このお話へとつながる生まれ変わりの物語をお待ちしています。
湊かなえさん執筆の作品はこちらからご覧いただけます。

そして今回は、「ルネッサンス期のイタリア」、「アビシニアンの猫」が出てきました。
「モナ・リザ」が描かれたのは16世紀初頭と言われており、
日本では室町時代にあたります。また「アビシニアン」と言えば茶色が一般的ということで
今回は「室町時代」「茶色」が使用されたものとさせていただきます。
<<既に登場した時代>>
「現代(平成中期~令和)」
「古代エジプト文明」「古代ギリシャ」「室町時代」「江戸時代前期」
「江戸時代・中~後期」「明治時代前半」「昭和初期」
<<既に登場した猫の種類>>
「白い猫」「三毛猫」「黒猫」「茶トラ」「グレーの猫」「ブチ柄の猫」
「キジトラの猫」「茶色の猫(アビシニアン)」
以上の設定以外を使って、短編小説を執筆、投稿お願いします!!
最終募集となる第8回の〆切は、3月10日。
お送りいただいた作品全ては、湊かなえさんご本人が読み、選考してくださいます。
第8回優秀作品の発表は3月31日(水)の番組内で行います。
投稿は↓のメッセージフォームから投稿いただくか、
〒556-8510 FM大阪『湊かなえの「ことば結び」』
「みんなで短編小説」のコーナー宛でお願いします。」

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