今日は小説投稿コーナー「3枚チャレンジ」
第3回優秀作品の発表を行いました。

画像: 3枚チャレンジ 第3回

湊さんと、塩田さんがそれぞれ提示するテーマに沿った小説、
またはエッセイを原稿用紙3枚、1200字程度にまとめて
投稿していただくコーナーです。
テーマごとに優秀作品を選び、今回も角川春樹事務所のPR誌
『ランティエ』に掲載されます!(掲載率は2倍!)

湊さんのお題…「ケーキ」;兵庫県神戸市のオサマメさんの作品

「あなた、また変なのを選んだのね」
 母がいちごを口に運びながら、刺々しく言った。私はそれを無視する。このマリトッツォとやらは、どう食べればいいのだろう。手で持って齧りつきたいが、それをすれば、母に「下品」と叱られるのは目に見えていた。
 父が亡くなってから、一ヶ月に一度、母が一人で暮らす実家を訪ねるようになった。いつからか駅前にある老舗のケーキ屋で、ケーキを二つ、手土産に買っていくことも習慣化した。今日もそうだ。私はマリトッツォ、母はショートケーキ。一ヵ月前は、私はピスタチオムース、母はショートケーキ。二ヵ月前は、私はバスクチーズケーキ、母は……。
そうだ、母はいつもショートケーキしか選ばない。色とりどりのケーキが並ぶショーケースの前で、私は母に電話を掛ける。お母さん、何がいい?答えは決まっているのに。「ショートケーキ」ほら、またそれだ。
 実家に着いて、母が来客用のティーカップに紅茶を淹れると、静かなティータイムが始まる。「おかえり」もないくせに、最初の一言はいつも同じだった。私のケーキを見て、「あなた、また変なのを選んだのね」。
 母は、流行りものが嫌いだ。新しいものが嫌いだ。だから、よく私の選ぶケーキをバカにする。ケーキを通して私をバカにする。またこの子は流行に飛びついて。本当に良いものが分からないんだわ……。
 結局、マリトッツォはフォークで半分にした。クリームが皿に零れる。娘が『変なの』に夢中なのを見ると、母はまた口を開いた。
「ショートケーキが一番美味しいって決まってるのに」
……ここだけの話、母には秘密にしていることがある。実は、母が食べているのはショートケーキではない。『昔ながらのショートケーキ』だ。
 数ヵ月前、いつものようにケーキ屋を訪れると、リニューアルオープンの看板があった。ドライフラワーが飾られたドアを開けると、中にはイートインスペースができていて、若い子たちで溢れ返っていた。古めかしい店構えは、すっかり無くなっていた。
 インスタ開設!の文字を横目にショーケースを覗き込むと、知らないケーキでいっぱいだった。フレジェ、タルト・オ・フリュイ、ヴェリーヌ……。
(ショートケーキは?)
 見慣れた姿を探すと、ショートケーキはちゃんとケースの隅にいた。ただし、『昔ながらのショートケーキ』という名前になって。
 私はそれを見た瞬間、ああ、母は『昔』の人間なんだ、と気づいた。選んだ食べ物をバカにされた記憶が、流行のスカートを貶められた記憶が、好きなアイドルを鼻で笑われた記憶がよぎった。
 ずっと、母の価値観が恐ろしかった。強い言葉で発せられるそれは、正しいような気がするから。でも、母の価値観は『昔』だったのだ。私とは違う。ショートケーキに、そう諭された気がした。
「ほら、美味しくないんでしょう」
 母が嫌味っぽく言った。ううん、お母さん。流行りものも美味しいよ。新しいものも美味しいよ。
 その言葉を飲み込んで、私は曖昧に頷く。母は初めて笑みを浮かべて、最後の一口を食べ終える。『昔ながらのショートケーキ』。来月も母はそれを食べるのだろう。だって、『昔』の人間だから。

塩田さんのお題…「雨」;京都市のツヨポンさんの作品

 カンタ君は小学三年生。「てるてる坊主」を作って逆さまにつるしています。その理由は、明日のマラソン大会が雨のために中止になってほしいからです。カンタ君は走ることが不得意でした。体育の時間のマラソンの練習の時でもみんなに追い越されて、いつも最下位でした。
明日のマラソン大会でも、きっと最下位になる、雨になって、マラソン大会が中止になってほしい、とカンタ君は思いました。
 しかし、何度つるしても、てるてる坊主は逆さまにはなってくれませんでした。
「あー、もうやめた。こんなことして、明日が晴れになったら大変だ。」
 カンタ君は寝ることにしました。
「明日は雨になりますように」とお願いしながら眠りました。すると、こんな夢を見ました。
 カンタ君は海岸の砂浜にいました。砂浜で潮干狩りのように砂を掘っていると、黒い生き物が出てきて、砂浜を転がって波打ち際に入りました。そして、カンタ君に話し始めました。
「こんにちは、カンタ君。アメフラシです。魔法を使って、雨を降らしてあげます。」
 そう言うと、アメフラシは、海に潜って紫色の液体を出して、まるで忍者が煙に包まれたように、姿が見えなくなりました。
 翌朝、目覚めると雨が降っていました。カンタ君が学校に行くと、マラソン大会はその日は中止になりましたが、一週間後に延期されてその日が晴れれば開催されるということが分かりました。延期になったマラソン大会が開催される前日の夜、カンタ君は眠る前に「明日、雨が降りますように」と再びお願い事をしました。
 夢の中でカンタ君は再び砂浜にいました。波打ち際にアメフラシが現れて言いました。
「前回はうまくいったけど、今回はどうなるか分からないよ。だけど、出来るだけやってみるよ」と言ってアメフラシは海に潜りました。すると、みるみるうちに雲がわき起こって雨が降ってきました。雨はどんどん降って、足元の水かさが増してカンタ君の膝までになりました。
「アメフラシさん、もう、雨を止めて。」
「実は、雨を降らす魔法の見習い中なので、雨の量の調節がうまくいかないんだ。」と海の上にポコッと現れたアメフラシは言いました。
 やがて水かさは腰のところまで増えてきて、カンタ君は飛び起きて布団をはねのけました。シーツの上には大きな世界地図ができていました。「しまった、どうしよう」と思っていると、遠くの方から「カンタ、起きなさい」と言う声が聞こえました。ハッとして気付くと、カンタ君はまだ布団の中でした。恐る恐る布団をめくると、おねしょはしていませんでした。
世界地図のところまでが、夢だったのです。
 登校時に空を見上げると青空でした。それは夢の中の海にそっくりで、アメフラシが浮かんで見えました。「アメフラシさん、魔法修行頑張ってね。僕もマラソン、頑張ってみるよ。」

次回も投稿お待ちしています!

第4回のテーマは…
湊さん・・・「クイズ」
塩田さん・・・「月」
〆切は、8月9日(月)とさせていただきます。
どちらかのお題を選んでいただき、原稿用紙3枚程度(1200字前後)で
作品の執筆をお願いします。
作品は小説でもエッセイでも、形式は自由です。
みなさんからの投稿お待ちしています!

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