今日は小説投稿コーナー「3枚チャレンジ」
第7回優秀作品の発表を行いました。

番組から提示するテーマに沿った小説、またはエッセイを
原稿用紙3枚、1200字程度にまとめて投稿していただくコーナーです。
テーマごとに優秀作品を選び、今回も角川春樹事務所のPR誌
『ランティエ』に掲載されます!
今回から1つのお題に絞って、2作品を選ばせていただきます。
今回のお題は「財布」でした!
タイトル;『ジージの財布』 兵庫県 カルテロさんの作品
10年ほど前におじいちゃんが亡くなった。
愉快で優しくて家族のアイドルみたいなおじいちゃんだった。
その時おばあちゃんは「生前みんなにはお世話になったから、これはおじいちゃんから」と言って、家族みんなに「御礼」と書かれた封筒を渡してくれた。
もらったはいいものの、私と小学生の息子はその封筒を前にして「どうする?」と考えた。
お小遣いやお年玉とも違うこのおじいちゃんからの封筒は簡単に使っていいお金ではない。かといってせっかくくれたのに、そのまま使わずに貯金というのも違う気がする。
さてどうしたものか…と、二人して頭を悩ませていたのだ。
それからの息子は事あるごとに独り言を言う。
「ゲームとかは違うと思うねん。そんなん買うのはちゃうやんか…」
「オモチャもちゃうしなぁ。そんなんいつでも買えるやろ?」
「お菓子も嫌やんなぁ。そんなんジージので買いたくないもんなぁ」
ゲームが違うならお菓子はもっと違うやろ…と私が思っている間にも日はどんどんと過ぎていき、そうこうするうちに息子が学校行事で旅行に行く日が近づいてきたのだ。
そこで私は閃いた。
「財布は?ろくなの持ってないやん。財布やったら旅行にも持っていけるんちゃう?」
その提案には息子も乗り気で、早速2人で買い物に出かけた。
歩き回っていろんな財布を見た結果、彼の目に止まったのはTAKEO KIKUCHIの財布だった。
「子供が持つような財布ちゃうで…」
「これ革やからめっちゃ傷がつくで?」
「他の使いたくなっても買わへんで?」
と、私はありとあらゆるリスクを彼に伝えたが、彼は彼で、
「でも大事にするし」
「でも傷がかっこよくなるんやろ?」
「でもジージの財布やから他のは欲しくならへんし」
と、どの言葉にも反論してきてもうすでに買う気満々。
せっかくだから長く使えるものをと思っていたこともあり、これもありかと私も納得した。
こうして綺麗な箱に入れられたジージの財布は、不釣り合いなほど小さな息子の元へとやってきたのであった。
それからの息子は恐々な手つきで財布を手に持ち、最初は息子が財布を持っているのか、財布に息子が持たれているのかわからないくらいの関係性であったが、それも時と共に段々と変化していった。そしてついには出先のトイレで財布を忘れるという失態までおかし、「でもお金は盗られたけど、ジージの財布は盗られんかった!」と、さも自分が財布を守ったかのような言い草で泣きながらトイレから出てきた…なんてことがあったくらい、息子とジージの財布との関係はフランクでかつ絆の深いものとなっていったのであった。
さて、そんな彼も今ではもう大学生。
今日もいつものようにジージの財布をバッグに入れて颯爽と学校へと向かって行った。
このかっこよく傷が沢山入ったジージの財布を見たら、きっとおじいちゃんも喜んでくれているだろうと思うのだ。
タイトル;『ときめく財布』 大阪府 ルミンさんの作品
ここは、ある街の小さなデパートのお財布売り場。時は、クリスマス商戦真っ只中。目玉商品は、ワゴンに並べられた様々な財布たちだ。
「さあ、みんな。お客様が私たちの前に来た時がチャンスだからね! 心を込めてビームを送るのよ」
ワゴンの中を仕切っているのはベージュさんこと、定番のベージュの長財布だ。
「あら、可愛いピンクの新入りさん。あなたどうしてそんなに悲しそうなの?」
ベージュさんは、他の財布たちへの心配りも完璧だ。
「私、昨日まで向かいのショーケースにいたんです。でも、今朝気が付くと、ここに入れられてしまって」
「あなた、若い女の子に人気のブランドね。星のチャームが付いていて、すごく可愛いわ! ピンクさんは、どうしてワゴンに入れられたのかしら」
「同じ形の仲間たちは、あっという間に売れてしまって、私だけが売れ残ってしまったんです」
「ダメダメ、そんなにメソメソしちゃ。私たちは、買ってもらえることが使命なのよ。このワゴンの中にある何十もの財布の中から選んでもらえるようにキラキラしていないとダメなのよ」
「ベージュさんは、こんなワゴンの中にいて悲しくないの? あ、ごめんなさい。失礼なことを聞いてしまって」
「平気、平気。そのうち売れるのよ。最悪売れ残っても、最後は福袋という団体旅行に行けるからね」
「福袋なんて絶対嫌です。だって、私たちの間では……」
「知っているわ。ブランド世界では福袋は島流しみたいに思われているんでしょ。でもね、定価でも半額でも福袋でも、誰かのお財布になることは素晴らしいことなのよ。だって、お金やカードや持ち主の大切なものを入れてもらえて貴重品と呼ばれるようになるのよ。私たちは、みんな貴重品になれるんだから自信を持ってね! ほら、見て。あの高校生ぐらいの女の子がずっとこっちを見ているわ。あの子、あなたと同じブランドのバッグを持っているから、あなたを買うに違いないわ。あ、こっちに向かって歩いて来るわ」
「ホントだ。私の方を見ているわ。なんだか、ドキドキして来たわ」
「それでいいのよ。ときめきが大切なのよ」
ところが、高校生の女の子が買ったのはベージュさんだった。ベージュさんは、女の子の家のクリスマスツリーの側にそっと置かれた。
「そっかあ、クリスマスプレゼントだったのか。ピンクさん、大丈夫かな」
責任感の強いベージュさんは、ワゴンに残してきたピンクさんの事が気にかかる。
やがてクリスマスの朝がやって来た。
「お母さん、これクリスマスプレゼント。お母さんのラッキーカラーよ」
「まあ、素敵なお財布。ありがとう。実はね、お母さんもあなたの好きなブランドのお財布を奇跡的に見つけたのよ」
「凄い。これ欲しかったんだ。ありがとう」
お母さんの手にスッポリと収まったベージュさんは、女の子の手の中でキラキラと輝いているピンクさんに、愛情一杯のウインクを投げかけた。
次回も投稿お待ちしています!
第7回のテーマは…「石」
このテーマから、2作品を選ばせていただきます。
〆切は、2月7日(月)です。
原稿用紙3枚程度(1200字前後)で
お題にちなんだ作品の執筆をお願いします。
作品は小説でもエッセイでも、形式は自由です。
みなさんからの投稿お待ちしています!