今日は小説投稿コーナー「3枚チャレンジ」
第8回優秀作品の発表を行いました。

画像: 3枚チャレンジ 第7回

番組から提示するテーマに沿った小説、またはエッセイを
原稿用紙3枚、1200字程度にまとめて投稿していただくコーナーです。
テーマごとに優秀作品を選び、今回も角川春樹事務所のPR誌
『ランティエ』に掲載されます!

タイトル;『インセキ』 神戸市東灘区 鳥山さん の作品

 学校から帰ってくると母さんがぬいものをしていた。ぼくの体操服のズボンだ。昨日体育の時間の運動会の練習でキバセンのモギの試合をしたら、二組の山ちゃんと取っ組み合いになって、キバから落ちた時に引っかかってズボンがビリッと言った。山ちゃんはゴメンと謝ってくれたが、キバしてた青木とかはぼくのパンツ見えてはしゃいどった。おかえりーと母さんが背中で言う。テレビでは今日もインセキのことをやってる。ほんまに落ちるんかいな、と父さんは一緒に風呂に入る度に言ってる。ジャンパーのポケットに手を突っ込んだら学校から蹴って帰ってきた石ころが入ってた。角のない丸もちみたいなキレーな石ころ。溝に落ちたら取れへんから終わりやけど、今日は落ちんとセイカンした。テレビでやってるインセキの大きさは大したものではなくて、この石ころとあんまし大きさ変わらへんらしい。けど落ちてくるスピードはめちゃ速くて、大谷のストレートの5倍とかテレビの人が言ってた。地球のどっかには落ちるらしい。でも地球は回ってるし、インセキは落ちてくる途中で宇宙ゴミにぶつかったらキドウをその度に変えるらしいから、落ちるとこはまだわからん。今はとなりの中国に落ちるカクリツが高い。もし落ちて当たったら死ぬ。大谷の5倍のスピードやから確実に死ぬ。ほら、できたで、と母さんがズボンを両手で広げながら満足そうな顔して言った。パートが休みの日の母さんは明るいから好きや。
 インセキが日本に落ちるカクリツは5千分の1ってテレビで大学の先生が言ってた。ほんでぼくのいる兵庫の神戸に落ちるんはその400分の1。人が一生でコウツウジコで死ぬ確率が500分の1で、だからそれよりもうんと低いらしい。コウツウジコは毎日のように起きてるけど毎日はテレビでやらん。けどインセキの話は毎日やっとる。日本に落ちるかもしれないって考えると怖いです、ってコメンテーターが毎日真剣な顔して言ってる。母さんが夕飯の仕込みを仕出した。野菜切る音が聞こえる。
 前に一回、日本に落ちるかもってホウドウが大々的に出た時には、学校のタイオウはどうなってるんかを校長先生が全体朝礼の時に話した。落ちる日の前後数日は学校ヘーサになるらしい。家でタイキ。行かんでいいんならラッキーやけど、家におっても死なへんのかはわからん。その次の日にはキンキューレンラクモーのモギのテストがクラスで回って、ぼくは高橋から電話きて、次の順番の高松に電話した。高松んちのホリュウの音は六甲おろしやった。音がビー玉みたいやった。
 相変わらずテレビではインセキのキドウのブンセキ結果が報道されてる。キャスターの人が、海に落ちることを祈るばかりです、ってテレビの中で今日も言ってる。揚げ物の油を弾く音が聞こえた。よっしゃ今日はトンカツや。
 インセキは今年の冬にはどっかしらに落ちるらしい。

タイトル;『パイライト水晶クラスター』
大阪府・豊中市 ナワトビペンギンさん の作品

大工をしていた父は多趣味な人だった。
父は短歌を詠んでいた。
軽トラの荷台に黒板を付けてそこに短歌を書いていた。
仕事に対する思いや日常を詠った父の短歌。
そんな短歌で黒板はときどき書き換えられた。
父は家庭菜園をしていた。
クルマで1時間ほど走ったところで野菜を育てていた。
父が亡くなってからは年に数回、母と私は父の畑だったところに草刈りに行く。
私は父ほど器用ではない。野菜は作れない。草刈りだけで一日仕事。
今日は朝から草刈りをして母とお昼の休憩をとっている。
父は畑の一角にプレハブ小屋を建てていた。
小屋といっても大工の父が作ったりっぱな部屋。
部屋にはキッチンがある。テーブルと椅子がある。
水道はないが雨水がドラム缶に貯まるようになっている。
ここは父の別荘、父の秘密基地。
そこで母と私はコンビニのおにぎりを食べ終わってお茶を飲んでいる。
窓際の棚には父が収集した石が並んでいる。
石のことはよく分からないがどれも綺麗な石。
窓からの光を反射してきらきらしている。
石はそれぞれ木製の台に乗っている。この台も父の手作り。
丁寧に加工された台は石と離れないようにしっかりくっついている。
この中で私のお気に入りは金属と水晶が混在する石。
それは金属の結晶からにょきにょきと水晶が生えてきたように見える。
ネット検索で知った石の名前は「パイライト水晶クラスター」。
この不思議なカタチは火山活動によって生まれるらしい。
そのひとつを棚から取り上げて座っている母に見せる。
「梅田で同じような石があったけど値段はそんな高なかったわ」
ちょっと残念な私の報告を母は聞いていない。
「字が書いてある」石を持つ私の手を覗きこんで母が言う。
「んっ?」石をひっくり返す。
達筆な父の字が読める。台の裏に短歌が二首書かれていた。
『はてしなき宇宙(そら)にかずある星よりも目にしみるなり君のきらめき』
『君がいてそばにいるこそわが世かな春の花よりこころひかるる』
そして平成11年4月18日の日付。
つまりこれは20年前の春に父が書いた歌。
こんなストレートに母への想いを詠った歌をこれまで見たことがない。
黙って石を母に渡す。
父から20年越しのラブレターが届いた瞬間に私は声が出ない。
母は短歌を読み返してにやにやしている。
私は棚からもうひとつ同じように輝く石を選んでひっくり返した。
日付は平成11年8月10日。今度は夏の歌が二首。
『きらきららかがやく君がいつしかに空降る星をいとど思ほゆ』
『暗闇の水にうかぶるこの地球(ほし)に君と出逢いしことの幸せ』
間違いない。石を母に渡す。
ここにあるすべての石に父が書いた母への短歌がある。
「もっと見る?」母に聞く。
母は小さく首を横に振った。
そうやな。しばらく胸いっぱいや。
私はふたつの石を棚に戻した。
これは2年前の出来事。
あれから何回か草刈りに行ったが石には触れていない。
父の短歌は今も秘密基地の石の下で母を待っている。

これまで沢山のご参加、ありがとうございました!!

第1回「時計」長岡京市 健さん 「はっさく」大阪・交野市 ビーよんさん

第2回「占い」京都市中京区 ジャミロワクイさん 「社会科見学」北海道 リーさん

第3回「ケーキ」兵庫県神戸市 オサマメさん 「雨」京都市 ツヨポンさん

第4回「クイズ」兵庫県明石市 月島あすかさん 「月」兵庫県南あわじ市 onuicoさん

第5回「写真」京都市 みゆきち さん 「ペン」豊中市 千里のよっちゃん

第6回「星座」宇治市 だでぃK さん 愛知県大府市 もちもちメロン さん

第7回「財布」兵庫県 カルテロさん 大阪府 ルミンさん

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