毎週月曜日にお届けする「オオサカマンスリージャーニー」。
大阪府内の市町村をひとつ取り上げ、1ヶ月にわたって深掘り。ゲストを招いて、DJの”おまり”こと三浦茉莉がインタビューします。ユニークなイベントやその町特有の取り組み、特産品など、町の魅力を幅広く発信するコーナーです。
今月ご紹介するのは…河内長野市!
河内長野市は大阪府の南東端に位置し、奈良県と和歌山県と接しており、北を頂点とした三角形の市域を形づくっています。
大阪都心から電車で約30分。南海・近鉄と2路線が通り、便利なアクセスでありながら、雄大な自然・美しい水や空気に恵まれた「都会と自然のちょうどいいバランス」が自慢です!
河内長野市の第3回目は、河内長野市の地場産業をご紹介します。
おまり:今日は河内長野市で1960年に創業した菊水産業株式会社の社長でいらっしゃいます末延秋恵さんをスタジオにお迎えしました。秋恵さん、よろしくお願いします。
末延さん:よろしくお願いいたします。
おまり:まず菊水産業株式会社は何を作っている会社でしょうか?
末延さま:みなさんが使われている爪楊枝を作っている会社です。
おまり:爪楊枝を作っている会社って、日本ではめちゃくちゃ少ないんですよね?
末延さん:そうですね。国産の木で作っているんですけど、みなさんが使われる一般的な形の爪楊枝を国産で作っているのは、全国で2社しか残っていなくて。
おまり:2社!?
末延さん:はい。地場産業として地元で製造しているのはうちが最後の一社になっています。
おまり:ものすごく貴重な会社ですね。爪楊枝の原料など、いろんなことについて教えていただけますか?
末延さん:爪楊枝と、黒文字楊枝っていう楊枝もあるんですがわかります?
おまり:わかんないです…。
末延さん:和菓子を食べるときに横に添えられている、黒い皮のついた楊枝って言われたら?
おまり:わかります!
末延さん:あれが黒文字楊枝というんです。それの国産の製造も行っております。
おまり:なるほど。爪楊枝と黒文字楊枝を作ってらっしゃるんですね。
末延さん:製造はその2つで、あとはオーダーで請けたりとか、海外産を輸入したりだとか、いろんな事業をしているんですが、製造としては国産の楊枝を2種類作っています。
おまり:河内長野市の地場産業となったのは何か理由があるんですか?
末延さん:河内長野市は70%が森林。農家の方も昔から多かったんです。農家の方の閑散時期に黒文字楊枝を削る内職をやっていて、それが地場産業として根付いたと言われています。諸説あるんですけどね。
おまり:今の爪楊枝の国内流通シェアはどんな感じなんですか?
末延さん:それは正直わからないんですよ。ネットで調べると河内長野のシェアは95%と出てきますが、今、みんな製造はしていないので、国内シェアと言われると、私たちが属している日本つまようじ組合でも「ちゃんと数を出さんとあかんよな」と話をするくらい。ただ取り扱いシェアはナンバーワンだと思います。
おまり:日本つまようじ組合っていうのがあるんですね。
末延さん:そうですね(笑)。もともと「河内長野つまようじ組合」だったんですけど、これだけ爪楊枝産業からはじまった会社が集まっている地域はほかにないんです。事業形態はそれぞれ変わっていたりするんですが、現在も9社くらい残ってるので、「日本」ってつけちゃえ、みたいな(笑)。
おまり:いいと思います!
末延さん:はじめは「河内長野つまようじ組合」でしたが、翌年には「日本つまようじ組合」と名乗りだしました。
おまり:組合のみなさんで知恵を出し合って、爪楊枝の啓発活動をしているんですよね。
末延さん:そうですね。やっぱり1社じゃできないことも何社か集まることでできたりしますから。これから衰退していくであろう産業なので、力を合わせていろんなことをしていこうと作った組合です。
おまり:そんななか菊水産業株式会社にピンチが訪れるということですが…。
末延さん:はい、大ピンチでしたね(笑)。
おまり:私も記憶にあって…。
末延さん:知ってはるんですか?
おまり:はい。その後、どうなったのか気になっていたのでお話いただいてもいいですか?
末延さん:ちょうど3年前、私は後継ぎとして代表取締役になった1か月後、本社、倉庫などが火事で全焼。自社で出して火じゃなくて、もらい火という被害なんですけど。なんとか工場は燃焼を逃れて機械はなんとか無事だったけど、そのほかは全部燃えちゃって。
おまり:言葉はあれですけど、絶望といいますか……。
末延さん:絶望とかなくて、こんな漫画やドラマみたいなこと、あるんやって思いましたけどね。
おまり:秋恵さん強いなぁ。その後どういうふうに立て直したんですか?
末延さん:立て直そうと意識したわけじゃないんですけど、お待ちいただいているお客様がいたので、やめるとか立て直さなきゃとか、そんな気持ちはなくて、とにかくがむしゃらに目の前のことをやるといった感じでした。
おまり:すごい。会社を引き継いで1ヶ月の出来事なのに、そこは肝が据わっていたと言うか、覚悟が決まっていたんですね。
末延さん:そうですね。その当時、けっこう取材などもあって、インタビューで「やめることは考えなかったんですか?」って聞かれたときに、その手もあったんだなと気付いたというか。
おまり:すごいです。前しか向いていなかったんですね。実際にどうやって会社をもう一度立て直すというか、爪楊枝を製造するという段階に至ったんですか?
末延さん:私がSNSを頑張っていて、主にXのフォロワーさんから支援の物資が届いたり、本当に全国各地からいろんなものが届いたんです。どうしにかしたいからクラウドファンディングをやって欲しいという声もあって。私は当時、クラウドファンディング否定派やったんですけど、あまりにみんながやって欲しいと言ったので、クラウドファンディングさせていただいて、それもありがたいことに400%以上の達成率で、すごくたくさんの方に支援していただきました。
おまり:私はクラウドファンディングっていいと思うんですよね。もっとやればいいのにってけっこう思うタイプです。みんなそういうところにお金を使うべきだと思うし、もう一度いい企業に再起して欲しいって気持ちはみんなあると思うで。そんなクラウドファンディングを達成できたんですね。
末延さん:はい。なんかクラウドファンディングへの考え方が変わりましたね。
おまり:あとXが役立ったんですね。
末延さん:そうですね。たくさん拡散してもらえました。私は企業の中の人としてXをしていますが、他の企業の中の人ともすごく絆があって、実際に会ってご飯を食べに行ったりしているんです。そういう方々が拡散の協力をしてくれたりしたので。
おまり:悲しい出来事だったけど、雨降って地固まるじゃないけど、それをきっかけにつながった人もいたし、あたたかさも感じたんですね。
末延さん:そうですね。
おまり:末延社長はWEBデザイナーをしていた経験があると聞いたのですが?
末延さん:前職がWEBデザイナーです。
おまり:WEBデザイナーをしていて爪楊枝の会社を継ぐってすごいですね。その覚悟もすごいし、どんな想いで転身されたんですか?
末延さん:菊水産業は会社をたたむって話が出ていたんです。私のおじいちゃんが設立して、おじさんが社長をしていて「この10年くらいで会社をたたもうと思うねん」って話が出ていて。でも私はおじいちゃんっこで、よく会社にも遊びに行っていたし、手伝って遊んだりもしていたんですね。それを失くすって聞いたときに(会社経営って)どんなんか全然知らんけど、なくなるのはイヤやって思って、その想いだけで私がやるってなったんです。
おまり:かっこよ~。すごいな秋恵さんのポジティブマインド。
末延さん:いや、なんも考えてへんからできたんやと思います。
おまり:見習いたいです。WEBデザイナー出身とのことで、ホームページがすごい素敵で商品のパッケージもかわいくて。これまでの爪楊枝の概念を覆されるというか、かわいいなと手が伸びるんだと思うんですが、その辺はどんな工夫をされているんですか?
末延さん:爪楊枝のパッケージって何十年も前から変わっていない。やわらかい丸い入れ物に入っているじゃないですか。そうじゃなくて、せっかく貴重な国産の爪楊枝をつくっているので、パッケージも付加価値をつけてデザインを一新するのも大事かなと思って。
ただ、私たちの商品って直接店舗に置くことができないんです。菊水産業の名は出ず、OEMで作っている商品がたくさんあるので、自社商品はネット販売が中心。なのでポスト投函できる薄さを意識してつくりました。
おまり:食後に爪楊枝でシーハーしているおじさんたちも、この爪楊枝ならおしゃれに持ち歩けそう。爪楊枝って日本の知恵が宿っているものだから確かに伝統的なものなんだなって、今一度考えさせられました。
末延さん:実はこういうキャラクターもいて…。
おまり:それ、なんですか?
末延さん:「つま子ちゃん」っていうキャラクターなんですけど、これもSNSに登場させて爪楊枝の貴重さや国産でつくるにはどうするのか、このキャラクターを使ってとっつきやすく紹介しているんです。
おまり:キモかわいいっていうか(笑)、ヤミツキになっちゃうかわいさですね。爪楊枝の上のデコボコの部分が顔と頭になっていておもしろいですね。
末延さん:「つま子ちゃん」はXで定期的におしゃべりしたりしています。
おまり:じゃあ菊水産業のXもチェックさせていただきたいと思います。
また、この12月に河内長野市は 東京大学先端科学技術研究センターと連携と協力に関する協定を締結し、その際の講演で爪楊枝についても触れられたとのことですが、今後どのような連携をされていくんですか?
末延さん:そもそも爪楊枝の製造機械が40年50年前の機械を使っていて、もちろんもう機械のメーカーもいませんし、修理したいときは自分達で直しているんです。部品がないので、部品を手に入れるために古い機械を買い付けしたりもしていて。ねじ1個をオーダーで作ったりもしていて本当に大変なんです。古い機械がなくなってしまったら、もうどうにもならないので、東京大学さんに図面を作ってもらうところからはじめました。今あるのは昔からの機械で大変なので、新しいよりよい機械を作れたら、と思っています。これから先のことはちゃんと決定はしていないんですが、今は東京大学の研究室に1台、使っていない機械を運んでいるので、これから分解して図面を引いたりしていこうという段階です。
おまり:ちゃんと機械を開発して更新していってもらわないと、この世から爪楊枝がなくなるってことですもんね。
末延さん:爪楊枝だけじゃなくて、これは本当に大阪のモノづくり全体に言えることなんです。機械が古くて、技術は中国に行ってしまって、日本で作れるメーカーがいないという問題がモノづくり業界でたくさん起きています。そうならないよう東京大学と連携しているんです。
おまり:新しい機械を開発して、心配ないようにしてもらいたいですね。
末延さん:そうですね。
おまり:さぁ菊水産業株式会社、これからもどんどん発展していくよう願っていますが、今後の目標や抱負などありますでしょうか?
末延さん:個人的な目標は老後を幸せに過ごすといろんなところで言ってるんですえど(笑)、菊水産業というよりも、日本のモノづくり全体として後継者不足に悩んでいる会社さんがたくさんいてて、地場産業もそうで、うちの会社も現状では私の跡を継ぐ人がいてない状況。
だから地元の方から見て夢のある仕事にして、こういう仕事に就きたいと思ってもらえる職業にすることが大事かなと思って、私もいろんな発信をして、声がかかればいろんなところに出向いています。
おまり:活気がいい波動となって爪楊枝業界が盛り上がる気がします。モノづくりを紹介するコーナーが「インテンス」の木曜日にもあるので、ぜひ来てほしいですね。もっと深いお話も聞いてみたいです。
末延さん:はい、ぜひ。
おまり:関西のモノづくりって、大阪に住んでいる私たちにとっても誇りなので、これからも頑張っていただきたいと思います。じゃあそろそろお時間となりました。最後にリスナーのみなさんへ一言お願いします。
末延さん:私はほとんどXでいろんなことを発信しているので、ぜひフォローお願いします。
おまり:はい、XもInstagramもチェックさせていただきます。Xの力はすごいと今日あらためて知れました。今日は菊水産業株式会社の社長・末延秋恵さんにお越しいただきました。ありがとうございました。
末延さん:ありがとうございました。
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