「三番叟(さんばそう)」
能楽の儀礼曲「翁(おきな)」の中で、狂言方の勤める役が「三番叟」です。常の能とも狂言とも違う、古風な様式を多く留めた神聖な曲とされ、現在でも、正月の初会や舞台披き、特別な記念の催しなどで演じられます。
まず前段の「揉之段(もみのだん)」は、舞手自ら掛け声を発する力強い舞です。大鼓の勇壮かつ軽快な打ち出しとともに動き始め、場に「喜びありや」と陽気を与え、大地を踏みしめ、邪気を払い、畦道を作り、クライマックスの「烏跳び」という跳躍を頂点に躍動的に舞います。
その後、「黒式尉(こくしきじょう)」の面を着け、千歳(せんざい)との問答をはさんで後段の「鈴之段(すずのだん)」を荘重に舞い始めます。鈴を手に、始めはゆっくりとしたテンポで足拍子を踏み、種まきのような所作を交えて舞いますが、鈴の音と囃子の演奏の響き合いとともに徐々にテンポが速まって行き、やがて最高潮に達します。
三番叟:野村 裕基
千 歳:飯田 豪
後 見:野村 萬斎、深田 博治
笛 :杉 信太朗
小 鼓:幸 正昭、後藤 嘉津幸、船戸 昭弘
大 鼓:亀井 広忠
「奈須与市語(なすのよいちのかたり)」
源平による八島の合戦の時のこと。海上の平家方より、扇を立てた一艘の舟が漕ぎ出だす。源氏の大将義経は、後藤兵衛実基の献策により、弓の名手・奈須与市宗高を召し、扇の的を射ることを命じる。初めは固辞した与市だが、義経の厳命にやむなく従う。与市は馬を海中に乗り入れるが、波に揺れる小舟になかなか狙いが定まらない。そこで神明に祈りを捧げると、不思議と的が一瞬静止する。すかさず放った矢は見事命中し、扇は夕暮れの波間にひらめき落ちる。源平両軍の賞賛の中、与市は大将義経の御感にあずかるのだった。
能『八島』の間狂言の特殊演出として演じられる語りで、奈須与市が扇の的を射た有名なエピソードを仕形話にしたもの。狂言の代表的な秘伝で、能とは別に単独でも演じられます。奈須与市・源義経・後藤兵衛実基などの人物を一人で演じ分ける華やかな仕形は、観る者を引き込まずにはいられません。
出 演:野村 万作
後 見:内藤 連
「MANSAI ボレロ」
野村萬斎が2011年に初演、以降各所で好評を博している作品。
ラヴェルの舞踊音楽「ボレロ」と、『三番叟』を軸とする狂言の発想と技法とが結晶し生まれた珠玉の独舞です。
ボレロの調べにのって、死と再生、うつろう一日や一年の四季、一生を凝縮して表現します。コロナ禍の閉塞感から次なる時代のステージへの飛翔という願いを込めて、今回勤めます。
舞 踊:野村 萬斎
振 付:野村 萬斎
音 楽:ラヴェル「ボレロ」
指 揮:西山 勝
管弦楽:シンフォニック・オーケストラ